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一貫したテーマを持つ事が大切な理由

さて、今回のテーマは「一貫したテーマを持つ」についてです。

本編に入る前に、ひとつ前置きを。

今回の内容は、かなり個人差もありますし
私の感覚でお話している部分が強い内容だと思いますので、
「これが正解なんだ、これを守らないとダメなんだ」とは思わないで下さいね。
あくまで、「こういう考え方もあるんだな」くらいでお読み頂ければ幸いです。

では、本編へ入りたいと思います。

今回の「一貫したテーマを持つ」は
ひとつの作品を個別に見ていくのではなく、
一人の作家が、何冊も小説を書いていく時の姿勢についての内容です。

長く小説を書いていく時、
テーマの選定には大きく分けて二つのやり方があるように思います。

一つは、毎回テーマを変えていくタイプ。
そしてもう一つは、いつも同じテーマを、何度も何度も視点を変えて書くタイプです。

前者の、毎回違うテーマを選ぶタイプの作家さんは
とてもマルチな小説家さんが多いように思います。

例えば、以前ほかの記事でも紹介しました、恩田陸さん。
「夜のピクニック」で本屋大賞を受賞された作家さんですね。

この方は、プロフィールを見ていますと
「SF、ミステリー、ホラーなど様々なタイプの小説で才能を発揮している」
とありますし、「夜のピクニック」は純粋な青春小説です。

結構色々なパターンで小説を書けるタイプです。

こういうタイプの作家さんは結構多いように思います。
エッセイやコラムを書いていたり、詳論を書いておられる方などはこのタイプかと思います。
マルチな才能をお持ちです。

自然と書ける本の数も増えますし、お仕事の幅も広がりますから、
これを楽しめる方にとっては、「色々な文章を書く」という事が
天職のようになっていると思います。

そしてもう一つのタイプ。一つのテーマを何度も視点を変えて書く方ですね。

これは小説家歴の長い作家さんに多いタイプです。

典型的な例は、村上春樹さんでしょう。
この方はとにかく典型的です。

彼の代表的な作品は、おおよそ主人公が「僕」。
そして、重い過去や事情を抱えた不思議な女性が登場し、
彼女に恋をしながらも、最終的には彼女が亡くなり、「僕」は一人になる。

こういうパターンが大半ですよね。
切り口や時代や環境が違えど、彼の作品に流れるテーマは一貫して
「自分探し」「儚い恋」「失う痛み」などがそうです。

どちらが良い、という答えはありません。

自分がどんな作家になりたいかによって、考え方が変わるところだとは思います。

しかし、個人的な好みで言いますと、
私は後者の「一貫したテーマを持つ」という事が、
とても大切なのではないかなと考えています。

と言いますのも。

私などは、どうしても小説を長く書いていると、
色々なパターンの(色々な分野の)小説を書いて、
「マルチに何でも書ける作家」にあこがれてしまうのですね。
(「何でも書ける」と言えるのは格好良いですよね)

しかし、実際問題として。

自分が人生全てをかけて小説を書いていったとしても、
「あらゆる分野の小説を極める」という事は難しいものです。

それが出来る人は、本当に歴史的な才能を持った方のみが
出来る事なのかも知れません。

逆に。

たとえ作品数や分野が少なくてもしっかりと良い作品を書いて
少なからず、感動して何かを考えてもらえるような作品が書けたとしたら。

それはとても幸せな事だと思います。

こう考えていくと、
何度も何度もチャレンジしながら
「一つの一貫したテーマを書いく」という事が、創作をする人として
一番、理にかなった生き方なのではないかと思うのです。

私自身も小説を書き始めたばかりの頃は
色々な分野、色々なテーマを書いてきました。

しかし、どうしても個々の作品が中途半端になってしまうのですね。

 

それよりは、むしろ「自分のテーマはこれだ」と決めて、
それを何度も何度も視点を変えて書いていく方が
自分としても納得が出来ますし、書く回数が増える程に
深みが増して行くような感覚を覚えます。

前作との違いを考え、自分としてはどうしたいのかを考えます。

そして、読者からも、「前作の方が良かった」「前作より良かった」という
感想を頂きながら、読者の皆様にどれくらい、自分の想いが伝わっているのかを
知ることが出来ます。


こうして、何度も何度も同じテーマを重ねながら、
読者とお互いに理解を深めていく。

それが、一番理想的な書き手と読者との関係なのではないかと思います。

 

いくら作品を創ろうとも、必ずその根底には、一貫したテーマや
思想(哲学と言っても良いかも知れませんね)があり、環境や設定、時代が変われど、作品の根底は同じ。

こういう創作スタイルをおすすめしているのには、理由があります。

それは、
「一つの作品だけで、作者の思想を表現する事は難しい」
という事です。

どんなに上手い方でも、
一つの作品で表現できる範囲には限界があります。

これは技術力の問題ではなく、量の問題です。

一作で全てを理解してもらうというのは、
一言で自分を全て理解してもらうのと同じくらい難しいものです。

それを解決するためには、
何度も何度も同じテーマで作品を重ね、
色々なパターンで表現して、少しずつ理解してもらう。

そうして、読者と書き手の間で
少しずつ、お互いに理解を深めていく…。

これは恋愛にも少し似ているかも知れませんね。

一つの言葉で相手への想いは表現できませんが、
何度も会い、何度も語り、何度も伝える事で
やっと、ぼんやりながらもお互いの想いが見えてくる…。

そんな感覚に近いものが、小説にもあるように思います。

 

私は、ずっと長く小説を書いていく上では、
こういう姿勢で読者の皆様と関わっていければ素敵だと考えていますし、
そういった作家さんと、長く付き合っていきたいと思っています。

今回は技術的なお話ではなく、
とても意識的なお話となりましたが、もし
「ああ、こういう考えもあるんだな」と思って頂ければ幸いです。