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テーゼ、アンチテーゼ を理解する

さて、今回のテーマは「アンチテーゼ」についてです。

少し難しい、小説の書き方本などを読んでいますと
時々出てくる言葉ですので、「何となく聞いた事がある」という
方も多いかと思います。

私自身も、あまり文学的な意味で深く理解している訳ではありませんので
厳密な意味での「アンチテーゼ」を詳しく知りたい方は
この記事とは別に、哲学関係の本を探してみて下さいね。
(かなり本格的な本も沢山ありますので)

 

 

今回の記事では、
「アンチテーゼとは、そもそもどんな物なのか」という点と、
「それを実際の小説の創作で、どうやって使うのか」を
私なりの考え方でお話してみたいと思います。

それでは早速、「アンチテーゼって、そもそも何?」という点から
入っていきましょう。
 

まず、アンチテーゼという言葉は
そもそもは哲学の世界で、「弁証法」と言われるジャンルの中に
出てくる言葉です。

弁証法には様々な種類があるのですが、その中で一般的に
アンチテーゼが使われている部分を、かいつまんでお話しますと、

「Aというテーマがある。それに反対するBというテーマがある。
 それらを発展的に統合すれば、Cというテーマが生まれる」

という考え方です。
 

 

Aが「テーゼ」。Bが「アンチテーゼ」。Cが「ジンテーゼ」と呼ばれます。

最後にはAとBが統合される、このプロセスの事を
アウフヘーベン(aufheben, 止揚)と言います。

これだけでは「何のこっちゃ?」という感じですので、
具体的な例を挙げて考えてみますね。
 

 

Aのテーゼ
「人は一人では生きていけない。だから友達は多い方が良い」

Bのアンチテーゼ
「友達が増えて、人間関係が複雑になり、人は思い悩む。
 だから友達が多すぎてはいけない」

Cのジンテーゼ
「人は一人では生きていけない。だから友達は必要だ。
 しかし人間関係が複雑になっていき、思い悩む。
 だからこそ、大切なのは友達が多いか少ないかではなく、
 自分が人間関係をどのようにとらえるかだ」
 

要は、Aという意見があり、Bという反対意見があります。
それらを戦わせて、勝ち負けをつけるのではなく、
その対立の中で発見した新しい考え方(Cのジンテーゼ)へ統合していく、
という事ですね。

(かなり厳密な意味で言うと、少し違うと思いますが
 ここでは哲学的な意味を議論する事が目的ではありませんので
 上のような例で書かせて頂いています)

 

ポイントは、
「AとBが対立して、どちらかが勝つ」のではなく、
「対立していたAとBが、新しいCの意見へ統合されていく」という所にあります。

 

 

これをふまえて。

では実際に、小説の中でどう使うのかへ入って行きたいと思います。

私自身としては、
この考え方は「ストーリー全体の流れ、構図」を考える時に
とても重要なものになると考えています。

具体的にみて行きましょう。

小説を書こうと思いますと、
まずは、主人公が必要となります。

主人公は当然、自分なりの意見や考え方を持っています。
これがAのテーゼですね。
 

その主人公(あるいは主人公達)の意見がありますが
それだけしか出てこなければ、小説の中に対立も何も起きませんから
「何も起きない平穏な日々」を書くだけの小説になってしまいます。

それでは物語になりませんから、
当然、反対意見の持ち主(あるいは反対勢力)が表れます。
ライバルであったり、敵対勢力であったり、現れ方は様々です。
彼らが、作品の中でいう、Bのアンチテーゼですね。

 

ここまでは小説を書いていけば自然と行き着く流れです。

問題はこの後、そのAとBがどうなっていくのか、です。
 

私達、小説の作者は
当然のように主人公に強い思い入れがあります。

そうすると、ハッピーエンドのエンディングを迎えようとすると、
ついつい、「AとBの対立の結果、Aが勝った」というパターンに
なってしまいがちなんですね。

SFで言えば、主人公達のAの勢力が勝って、Bは滅びたというパターン。

恋愛小説で言えば、主人公は彼(彼女)が出来てハッピーエンド、
ライバルは恋に破れて寂しい結果、というパターンですね。
 

 

これはこれで作品として面白いと思いますから
一概に否定するつもりはありません。

ただ、小説家として自分のレベルを上げていこうと
考えた時は、一度、「Cのジンテーゼへ行き着く」という結論を
是非試してみて頂きたいんですね。
 

 

先ほどの例で言えば、
SFの場合、AとBが対立してどちらかが滅ぶのではなく、
ストーリーの構図自体を、

「物語の序盤~中盤は、主人公とライバルが別々の勢力の所属し
 戦争という形で戦っていたが、ある事件が発生した事により、
 主人公とライバルはこの戦争の無意味さを知る。そして、
 戦争の中で主人公とライバルは独自に、和平を目指して、
 共同で和平交渉に入る。その為、元々主人公のいた勢力、そして
 ライバルのいた勢力両方から命を狙われつつも
 平和を目指して和平活動を行う」

というようなパターンも考えられると思います。
 

この場合、
AとBという戦争のパターンが序盤~中盤までの構図ですが、
終盤になると、「Cという結論を目指す主人公・ライバル」と
旧勢力のA、Bが対立するという形へ、構図そのものが変わります。

これが物語のエンディングでCへ全て統合されるという結論になるでしょうか。

 

 

恋愛小説の例で言えば、
Aという主人公がいます。恋のライバルであるBがいます。

二人が同じ人を好きになってしまった、いわゆる敵対関係になりますが
これを「Aが付き合う事になった」というエンディングにするのではなく、
違うパターンを考えてみて頂きたいんですね。

例えば、
AとBが「恋に夢中になるのではなく、自分のやりたい事を見つけ
それぞれが夢に向かって別々の道へ歩き始める」
という全く別の構図へ変えてしまうのもアリかと思います。

(この場合、もっと面白いパターンが沢山あると思いますが
 今すぐに思い浮かばなかったのでこれで勘弁して下さい:笑)

 

ポイントは、
「元々ストーリーが始まった頃から有る、AとBという対立が
 最後まで続くのではなく、その対立の中で、新たにCという 考え方が生まれてくる」

という所です。
 

こうする事で、主人公は否応なしに、
今持っているAという考え方を捨て、自分の考え方を変えていく必要があります。

それはつまり、主人公の変化、成長ですよね。
 

主人公が人間的に成長しなければ、
今の考え方を変える事は出来ません。

そして、考え方を変える時には、
周りからも、自分の心の中にも、とても多くの対立が発生します。

その対立の中で生まれる、苦悩や葛藤。
そして、対立を押し切ってでも、新しい考え方へ変えていく、情熱、信念。
 

 

こういったプロセスが、
小説の中で、読み手の皆様の心を動かす、「人間くさい」部分に
なっていくんだと思います。

考え方を変える、というのは
主人公だけではなく、それを書いている作者その人にもとても大きな負荷がかかります。
正直、こういう作品はとてもパワーが要りますし難しい部分もあると思います。

ただ、こういう作品を書き上げた時、
それは主人公だけではなく、作者である自分も
成長が出来ていると思うんですね。

私自身も、まだこういった作品の「生みの苦しみ」の中で
もがいている最中ですので、人に偉そうに言える立場ではないのですが、
是非、この「小説を書く事で、作者も成長する」というプロセスを
皆様にも共有して頂ければと思い、今回のコラムとなりました。
 

 

「もっと小説の構図そのものを変えて行きたい」
と思った時、このコラムの事を少しでも思い出して頂ければ幸いです。

あなたの創作が更に発展していかれます事を
心からお祈りしております。