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「経験していないと書けない」のウソ・ホント

先日、とある質問を頂いておりましたので
今回はそれにお答えする形で進めて行きたいと思います。

頂いておりました質問は、
「実際に自分が経験した内容でないと、人に感動してもらえる
作品にならないのでしょうか。自分は経験が少ないので不安です」
という内容でした。

 

もう少し具体的に言いますと。

例えば、恋愛小説を書こうとする場合に、
その主人公が感じている感覚を表現しようと思うと
実際に自分自身が大恋愛をして、(ノンフィクションではないにせよ)
自分の経験から感じた事、感覚を表現しないと
良い作品にならないんじゃないか、という事ですね。

こういうお悩みをお持ちの方は
特に十代の小説書きさんに多いんじゃないかなと思います。

 

これは、私の個人的な感覚で言いますと、
半分はその通り、半分は間違いだと思います。

表現したい内容によるんですね。
大きく分けてみると、以下の三つになると思います。

1.「経験していなくても書ける内容」
2.「経験していた方がベターな内容」
3.「絶対、経験した後に書くべき内容」

 

まずは、1.「経験していなくても書ける内容」から
お話させて頂きますね。

例えば、推理小説やホラー、サスペンスなど
殺人事件の起こる小説を書く場合。

これを、「殺人した時のリアルな気持ちを書きたい、その為に実際経験しよう」と
なってしまいますと、すぐに刑務所行きで
二度と小説は書けなくなってしまいますよね(笑)。

また、SFの近未来小説やファンタジー小説などは、どうやっても
リアルな本物の感覚を確かめる事は出来ません。
(実際に自分が未来へ行く事なんて出来ない訳ですから。歴史小説も同様ですよね)

そう考えますと、「経験していなくても書ける」というより
「経験しないままに書かなければならない」の方が近いと思います。

こういう内容については、
読者の皆様も「真実である事」を求めているというよりは、
読んで「本当にそこにいるような感覚になれる事」を求めている傾向が強いと思います。

つまり、その主人公の感情が「事実かどうか」を求めていない訳です。

この場合、大切なのは
「本当にそこにいるように感じられる表現」になります。

その表現を支えているのが
「背景の説明」や「登場人物それぞれの価値観を明確にしておく事」や
「考えているプロセスをきちっと書く」などの手法になる訳ですね。

(これらは書き始めると長くなりますので、また別の号でご説明させて頂きますね)

 

 

そして、二つ目。
2.「経験していた方がベターな内容」です。

 

これは、正に今この時代に主人公が生きている小説です。
その代表が恋愛小説ですよね。

確かに恋愛小説を書こうと思った場合は、
実際に自分が恋愛している方が良い作品を書ける事は間違いありません。

しかし、これも「絶対」ではなく、あくまで「ベター」なんですね。

ノンフィクションを書くなら話は別ですが、
そうでないのならば、ある程度を予想や自分の感覚で書いても
良い作品に仕上げる事は可能だと思います。

といいますのも。

恋愛というのは、人それぞれで、
感じ方も考え方も、実際に起きた出来事も
100人いれば100通りの恋愛が世の中にはあります。

同じものなど全くありませんよね。

この中で重要になるのは、
「実際にその恋愛で感じた事」というよりも、
「その後の主人公の価値観や考え方」が重要になってくると思います。

もう少し具体的にお話しますね。

例えば、恋愛小説のワンシーンで、
主人公の女性が彼氏にふられたとします。
この場合、「悲しい」という気持ちになる所までは
どの小説家が書いても、そこまで大差はないと思います。

大きく違ってくるのは、「それをどう捉えるか」です。

ある人は「悲しいけど、前向きになろう」と思い、
ある人は「悲しい、……本当に悲しい」とひたすら落ち込み、
ある人は「悲しい、恨めしい」と逆に相手を恨み始め、
ある人は「悲しい、けどまあ良いか」と忘れてしまう。

 

「悲しい」という感じ方は同じでも
それをどう捉えるか、どういう価値観なのかが大きく変わってきています。

これは、実際に自分が大恋愛をしたかどうかというより、
作者の性格や価値観の方が大きく影響してきますよね。

私が思うに、
本当に良い恋愛小説というのは、
「感じた事」の書き方が上手いのではなくて、
その作者の捉え方や価値観が、読者の皆様の心をつかんでいるんだと思います。

そう考えると。

確かに自分が恋愛をした方が、自分の性格や価値観を知る機会は増えますが、
「大恋愛をしていないから恋愛小説を書けない」というのは
また別の話だと思うんですね。

重要なのは、「自分の価値観・捉え方」の方になると思います。

「経験していないから書けない」というよりは
「経験していないから、自分の事をよく理解していない」の方が
表現としては近いでしょうか。

逆に言うと、自分の性格や価値観さえ
ちゃんと理解して、それを言葉に出来るのであれば、
例え経験がなかったとしても、十分に良い恋愛小説を書く事が出来ると思います。

 

そして、三つ目です。
3.「絶対に経験した後に書くべき内容」ですが、
これは、ある種の特別な状況を書く場合がほとんどです。

最近、ドラマや本などで話題になる事の多い
働く女性の気持ちや生き方を上手く表現した作品などですね。

こういうジャンルは、絶対に経験した後に書いた方が良いと思います。

というのも、
先ほどの恋愛小説の場合とは反対に、
「三十歳前後の女性の気持ち」というのは、
この年齢層の女性の大半が一度は感じる内容ですし、
人によっての差が(恋愛ほどには)大きくならないと思われるからなんですね。

同じように、
「子供が生まれた時の嬉しい気持ち」や
「就職先が決まらない時の就活生の焦り」や
「最愛の人を亡くした時の気持ち」など
ある特殊な状況(しかも、経験される方の人数が多いもの)は要注意です。

こういう状況の場合、
経験された方の多くが「よく似た感情」を感じますが、
それは経験していない人間が予想する内容とは随分とまた違っているものです。

そして、こういう状況を経験された方は
同じような経験をされた方と、その時の「よく似た感情」を分かち合っている事が多くありますので
その感情をちゃんと把握し、正確に書かないと、読み手の方の共感は得られにくい内容になるんですね。

先ほどの恋愛小説の場合は
「感じ方より、その後の捉え方や考え方が重要」と書きましたが、
ある種の特別な状況の場合は
「感じ方そのものが重要」になって来るんですね。

 

その分、難易度は非常に高いものになると思いますし、
ここの感じ方の表現をわかっていないと、
「ちょっとズレた小説」になってしまう可能性も高いと思いますので
非常にデリケートな書き方が必要です。

こういう内容を書く場合は、
まず自分が経験する事ですが、それがどうしても難しい場合は、
(失礼のない範囲内で)相手に実際伺ってみるというのも一つの手かとは思います。

 

 

ざっと、大きく分けて以上の三つになるかとは思いますが
実際には書いてみないとわかりにくい部分も
多くあるかと思います。

「私には経験が少ないからなあ」ともしあなたがお悩みの場合は、まずは
「自分の経験がないから書けないのか、他の原因があるのか」をしっかりと見つめて、それから対策を考えても良いかと思います。

その際に、今回のコラムが少しでも
あなたのお役に立てる事があれば幸いです。

素敵な小説創りに向けて、一緒に頑張っていきましょう!