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一人称か三人称か。それぞれの特徴

小説の書き方には、基本的に一人称と三人称があるのはご存知ですよね。

一人称というのは、自分自身の視点で描く物語。
三人称というのは、ナレーターの視点で客観的に描く物語です。

ストーリーや設定を考える前に、まず
「今回の小説は一人称で行くのか、三人称で行くのか」が問題になります。

ここが間違っていると、ストーリー上どうやっても書けない構図が
出てくるからなんですね。

 

すごく簡単に言ってしまいますと。

一人称は、自分以外の人だけのシーンが、ルール上書けないのですね。

例えば、一人称でビジネス物の小説を書こうと思う場合。
自分の出席した会議や打ち合わせは、その場をリアルに書く事が出来ますが、
自分が出ていない会議などは、一人称では書けません。
(自分の視点でしか書かないので、自分の見ていない物は当然書けません)

せいぜい報告書などを読む、という形で描くしかありませんから
こうなるとリアルさがどうしても欠けてしまいますね。

その点、三人称は非常に便利です。
よく三人称は「神の視点」と言われます。主人公だろうが、ライバルだろうが
誰もいない場所だろうが、人の心の中だろうが、あらゆる場所に行って
あらゆる描写が出来てしまいます。

とても便利ですよね。

しかし。
世の中、便利なだけで不利な部分がない物などありません。

三人称にも制約があります。

それは、「神の視点」であるだけに、「自分の主観を入れられない」という点です。

どういう事かと言いますと。

例えば
「それはまるで、6月の雨のように心を憂鬱にさせる本だった」
という表現はNGになります。かなり厳密に言えば、ですが。

といいますのも。
「6月の雨」を憂鬱だと考えているのは、作者の個人的な主観なんですね。
6月の雨が、しっとりしていて静かで大好きだ、という人もいる訳ですから。

あくまで「神の視点」で書く以上、個人的な主観は入れられないのですね。

この場合、「6月の雨のように」を省かなければならなくなります。

(これには幾つかの説があり、三人称は「神の視点」ではなく「作者の視点」で
 ある、という説の場合は、この表現も可能になりますが)

要は、三人称の場合、どの説で行くにしても、
かなり客観的な物の見方と書き方をしなければなりません。
ビジネス文書のようなイメージですね。
そういう形で書かなければならないため、それなりに向き不向きも出てきます。

 

ざっくりとですが、一人称と三人称の特徴を挙げてみますと。

【一人称の特徴】
・自分の心を描く文体であるため、心理描写が非常に簡単に出来る。
・心理描写が頻繁に出てきても違和感がない。
・その代わり、自分が見ていない物は書けない。
・他人の気持ちを描写できない。

【三人称の特徴】
・あくまで客観的に書くので、事実は事実として書ける。
・心理描写が難しく、頻繁に使うとバランスが崩れる
・主人公のいないシーンを書く事が出来る。
・誰の気持ちでも書けるが、あまり長く深くは書けない。

こういった特徴があるように思います。

こう考えますと、自分の小説はどちらで書く方が有利か、というのも見えてきますよね。
私が個人的に考える、「このジャンルはこの文体が有利」というのを
少し挙げてみますね。

 

【一人称が有利なジャンル】

・恋愛物 
 これは間違いなく有利です。恋は自分の気持ちを中心に動きますし、
 相手の気持ちが見えないからこそ、より面白くなります。
 三人称で相手の気持ちまで書いてしまうと、先が見えて、
 恋の面白さである「不安」が消えてしまう事になりますからね。

・推理物
 これも同じ理由です。推理する本人の視点で考えていくので、
 推理が当たっていたり、外れていたりという面白さがあります。
 これも三人称で書くと、推理する主人公よりも、読んでいる読者の方が
 より状況を知っているため、読者が推理する楽しみが消えてしまいがちです。

【三人称が有利なジャンル】

・ビジネス物
 ビジネスの世界は、自分一人で出来る事が限られてきます。
 自分以外の所での動きがキーになってきたりしますので、それを描いて
 全体の動きを見えるようにしなければなりません。
 その意味では、心の動きというよりも、事実の動きが重要なジャンルですから
 やはり三人称が有利でしょう。

・戦争物、SF、ファンタジー
 これもやはり全体が見えてこそのジャンルですから、ビジネス物と同じ
 理由で三人称が有利でしょう。
 ただし、これには少し例外があります。
 それは、例えば戦争物を書く場合、自分が前線で戦う苦悩や、
 故郷にいる家族を思う気持ちを中心に書く場合は、一人称が有利になるという点です。
 要は、戦争物でも、戦いの全体を見せたいならば三人称。
 現場での心の動きなどを書きたい場合は一人称が有利となります。
 (後者の場合、舞台が戦場なだけで、中味は自伝のようになりますね)

ざっくりとですが、このような感じになるかと思います。

要は、自分の心の動きを小説のメインにしたいのならば、やはり
一人称が有利になります。
逆に、全体の動きが重要になる分野では、三人称が有利でしょう。

小説の世界では、まずストーリーを考える前に、
どちらの文体で何を書くのかが重要になります。

絵の世界で言えば、油絵で描くのか、水彩で描くのか、という
そもそもの入り口に当たる部分ですから、ここを間違えると
後々、修正が本当に大変な作業になってしまいます。

まずは「この作品で一番大切なのは何か」をしっかりと考えた上で
書いていきたいものですね。

一人称と三人称の、強い点と弱い点を理解した上で
いざ、小説の執筆に移るようにしましょう。